絆の青空.��
「ただいま〜」
可奈子の元気な挨拶と共に家の扉が開かれた。
「おかえり〜、御飯にする?それともお風呂にする?」
久留里さんの笑顔に迎えられる。
久留里さんは正装からすでにショートパンツにTシャツという室内着に着替え済みだった。
「可奈、お腹空いた〜」
可奈子が靴を脱いでドタドタとダイニングに向かう。
「じゃあ、先に御飯にするわね」
もう準備は出来ていたらしく、久留里さんが手際よく料理を机に並べていき可奈子がそれを手伝う。
「久留里さん、文月先生か葉月先生から連絡はありましたか?」
俺がそう尋ねると
「ああ、ハルちゃんとトオル君?うん、連絡あったわよ、だから今晩お風呂に入ってから出掛けるね」
久留里さんはよそった御飯を俺に渡しながらそう言った。
久留里さんの今日の晩御飯は昨日に較べ野菜中心のダイエットメニュー。
女性の食事とはこういうものなのだろうか。
とはいえ、俺は昼を食い過ぎていたので丁度良かったのである。
食事中も可奈子は初めて行った学校であったことを終始楽しそうに久留里さんに話していた。
食後、水無月姉妹揃っての勧めにより、昨日と同じく俺が先に風呂にはいることに。
そして、まさかとは思ったが……いや、やはりと言うべきか風呂につかって数分後
「お兄ちゃ〜ん」
「総悟く〜ん」
「「お背中ながしま〜す」」
バスタオル一枚巻いただけの水無月姉妹が風呂場に乱入してくる。
もう勘弁して下さい。
「ほらほら、お兄ちゃん、背中出して」
そう言って可奈子が俺の背後に回り込む。
「はい、総悟君、髪を洗いましょうね〜」
久留里さんは俺の正面に回り込んだ。
久留里さんの手の届きやすい位置に頭を持ってくると、必然的に目の前に久留里さんの胸が……。
バスタオルの向こうには結び目を破って零れだしそうなほどの圧迫された深い胸の谷間が覗いている。
俺は生唾を飲んだ。
朝触ってしまって思ったけど、相当大きいよなあ……。
ザパァツ
「アチイッ、目がッ目がぁっ 」
久留里さんのふふッという笑い声と共に
「人の体をエッチな目で見てるとそうなるのよ。今度見ようとすると目にシャンプーが入るわよ」
そう言いながらお湯のかかった俺の髪にシャンプーを刷り込んでいく。
一方背後ではすでに可奈子が俺の背中を石鹸のついたスポンジで擦り始めていた。
「あ、可奈子、そこはいい、自分でするから!」
股間を隠すため、タオルを持つ両手だけは動かせない。
ここだけは最後のプライドとして突破されてはならないのだ。
「え〜、お兄ちゃんのだったら可奈子、だいじょうぶだよ〜」
「いや、そう言う問題じゃなくてっ」
ザパァッ
「アチィ、今度は口にッ」
「ハイ、洗髪終了」
「アハハッ、お兄ちゃんおもしろ〜い」
ガラァピシャッ
「完全に、遊ばれて、いる」
肩で息をしながら天国とも地獄ともつかない場所をなんとか脱した。
二人が上がってくる前に髪を乾かし、室内着に着替える。
さて、明日の弁当はどうするか……。
現時点で最大の悩みの種はそこだろう。
ダイニングの机に肘をついて、真剣に悩み始めた。
どっちかの弁当を断ればすむのだが、美幸をこれ以上怒らせたくないし、可奈子も泣かせたくない。
どちらを選ぶにしても、断り方が問題なのだ。
かといって交替で作ってもらうというどっちつかずは双方の不興を買いかねない。
数分後、久留里さんが先にあがってきた。
先程と同じ、Tシャツとショートパンツのラフな格好でバスタオルで頭をかき回しながら。
風呂上がりで薄着の躰から湯気が出てるのが妙に艶っぽい。
「久留里さん、随分早いですね」
机に座って考え事をしていた俺の隣の椅子に久留里さんが腰かける。
「あたしは出掛けなきゃいけないから。それに総悟君と二人でお話もしたいし」
バスタオルを首にかけて、久留里さんは笑顔で小さく手招きする。
「総悟君……」
久留里さんの意図が掴めず俺が椅子を近づけようとすると、耳と髪を纏めて掴んで引っ張られ、そのまま横に強引に体を倒された。
俺の顔が横に倒された先には柔らかい太股……。
「く、久留里さん?」
思わず裏返ってしまう声。
「風呂上がりにとっちゃうのが一番いいのよ。ほら、暴れると痛くなるわよ〜」
俺の耳たぶに久留里さんの指が添えられ、俺の耳の穴に細長いモノが侵入してくる。
何をされるかと思いきや、久留里さんは俺の耳掃除を始めたようだ。
ショートパンツだから、ナマ膝枕になってしまっている……。
風呂上がりの火照った肌に、石鹸のいい香りが……。
後頭部にも何か柔らかいものが当たってるし……。
ああ、柔らかくて気持ちいい……。
だんだん夢見心地になっていく俺。
「そうそう、力を抜いて〜。おう、とれるとれる〜」
俺は既視夢を見ていた。
何年か前にもこんなことがあった。
母さんがこうやって風呂上がりに耳掃除をしてくれて……。
風呂から上がった瞳が次は自分の番だと横でだだをこねていたっけ……。
でも、いま俺の耳掃除をしてくれているのは久留里さんだし、風呂に入っているのは瞳じゃなくて可奈子だ。
久留里さんが俺の耳の穴にふ〜と吐息をかける。
背筋を走るような快感だった。
「はい、右耳終わり〜、次は左ね」
俺が体を反転させて顔を久留里さんの体の方へ向ける。
風呂の時に引き続いてまたもや目の前に久留里さんの巨乳が迫る。
しかも、久留里さんが微妙に動くたびに胸の先が今度は顔にふよふよあたるのである。
尖ったさきっぽが出てると言うことは、下着を付けてないのだろう。
まあ風呂上がりなんだから当たり前なんだが。
「今日のこと、ルリちゃんから聞いたわ」
お弁当を二つ食べて腹を壊した件だろう。
「晩御飯は普通に食べれたみたいだから、もう大丈夫みたいね」
控えめな晩御飯は俺を気遣ってのことだったのか。
「ねえ、明日はどうするの?」
それを今考えていたところだ。
だが、耳こそ久留里さんの言葉を聞いているが、俺の精神はまだ桃源郷を彷徨っている。
「ねえ、総悟君が一番好きな人は誰?美幸ちゃん?可奈子?それとも……」
久留里さんが手を止める
「あ・た・し?」
俺の耳の穴にふ〜と吐息を吹きかけた。
またもや、背筋を走るような快感。
「えいっ」
久留里さんが前屈みになってぐりぐりと俺の顔に胸を押しつける。
い、息ができん……な、ナマに近い感触が……気持ちいいが……ぐるぢい……。
「ぷはっ」
久留里さんが体を起こし、俺の体も椅子から起こさせた。
「サービスタイム終了〜。今晩、よ〜く考えて答えを出しなさい。それで、明日のお弁当は総悟君が一番好きな人に作ってもらうのよ」
久留里さんは俺の頭をなでながら諭すように話しかける。
「そんな不安な顔しなくても大丈夫、総悟君が誰を選んでも、一生懸命考えた結果なら、選ばれた人は想いを受け止めてくれるし、選ばれなかった人もきっとその答えを受け止めてくれるわ。だって、みんな総悟君のことが大好きなんだから。もちろん、あたしも含めてね」
久留里さんは女神の微笑みを絶やすことなく続けた。
「まだ決心がつかない?じゃあ……あたしの元気、わけてあげるね」
そういって俺の前髪を掻き上げて
ちゅっ
わざとだろうか、小さな音を立てて、俺の額に湿り気を含んだ柔らかいものが押しつけられて、視線を上げるとうっすらと目を開けた久留里さんが顔を離した。
「じゃ、頑張ってね」
最後まで笑顔でそう言って外出着を持ってダイニングを出る久留里さん。
「あ、あたしがいいんだったら帰ってきてからそう言ってね。明日の下ごしらえをしてから寝るから」
ダイニングの入り口から顔だけ出してウインクをしたあと、投げキッスをする。
「水無月久留里、水無月久留里に清き一票を〜っ。じゃ、いってきま〜す」
夢から覚めやらぬ顔で久留里さんが出ていった戸を見続ける俺。
ああ、久留里さん……いいなあ。
さすがは俺の初恋の人。
あの人が初恋って言ってもおかしな顔する人はまず居ないだろう。
久留里さんにしとこうかなあ……。
ってオイ。
自らの両頬を二回平手で叩いて目を覚ます。
久留里さんとほとんど入れ替わりに、パジャマに着替えた可奈子が風呂からあがってきた。
「あ、お兄ちゃんお風呂あがったよ〜」
姉と同じようにバスタオルで頭を擦りながらダイニングに入ってくる。
「あ、お兄ちゃん、お弁当箱出しといてくれる?明日の仕込みを始めるから」
自分の鞄を探りながら
「その事なんだけどな、可奈子」
そう言いながら可奈子がくれた弁当箱を取り出して机に置いたとき、もう一つ、同じ箱状の形態をした包みが床に落ちた。
「あ、落ちたよ、お兄ちゃん」
それが拾い上げた可奈子が言った。
「あたしのと違う……なに、これ」
可奈子はその箱をじっと見つめる。
「美幸の作ってくれた弁当だよ」
観念した俺はそう言った。
「どういう……こと?」
可奈子は弁当箱を机に置いて顔を上げ、今度は俺に視線を移す。
「そう……だったんだ。だから保健室に……」
俺はしばらく目を反らしていたが、可奈子と正面から向き合って
「俺と美幸、付き合ってるんだ」
今度は可奈子が俯いて視線を外す。
「ゴメンね……。気付かなくて、お兄ちゃんや美幸さんに悪いコトしちゃったね……ごめんね」
可奈子は部屋を走って出ていってしまった。
ふぅ
俺は外出の準備を始めた。
すぐに外に出られる格好になった後、机の上にある弁当箱の片方を手に取る。
そして、もう一つの弁当箱を見つめた。
そのまま数十秒の逡巡を経て、俺は弁当箱を置いて、二階へ上がった。
そして、可奈子の部屋の扉の前に立つ。
妙な既視感があった。
ここは以前瞳の部屋だったし、久留里さんの部屋も以前は母の部屋だった。
意を決してノックをする。
「可奈子?」
返事はなかった。
ノブを捻ってそっと扉を開く。
枕に顔を埋め布団をかぶった少女がいた。
小さく鼻をぐずる音が狭い部屋に響いている。
「可奈子」
布団の横に腰を下ろした俺はそっと布団の上に手を置く。
すると布団の中でもぞもぞ方向転換を行って可奈子は仰向けに体を起こした。
その少女の顔はやっぱり瞳ではなく可奈子で、
「お兄ちゃん、初恋ってやっぱり実らないのかなぁ……」
可奈子の目は赤く、腫れ上がっている。
「そう……かもな」
可奈子と正面から向き合い、俺は目を細めた。
「お兄ちゃんの初恋も叶わなかったの?」
ここで目を反らしてはいけないと思った。
「うん」
可奈子はどうやら興味を持ったらしく、
「いつ?可奈子の知ってる人?」
布団から身を乗り出した。
「可奈子のよく知ってる人だよ」
言っても好影響はあっても悪影響はないと思うが……
「その人は今どうしてるの?」
聞いて可奈子が後悔しないだろうか。
「……さっき飲みに出掛けた」
……
「お姉ちゃん?」
可奈子の呟きの後、沈黙が場を支配する。
俺は小さく頷くことでそれを肯定した。
可奈子がこんなに呆気にとられたのは初めて見たな。
「ごめんね、お兄ちゃん。あたしばっかり悲劇のヒロインだと思ってた。お兄ちゃんも辛かったんだね。あたし、ホントに何にも気付いてなかったんだね」
可奈子は前にも増して涙腺を全開にして俺に抱きついてきた。
「いいよ。気にしなくて。それが可奈子のいいトコなんだから」
両肩を持って引き離すと可奈子はまだ鼻をぐずらせている。
「だから、明日からも今まで通り、変な気は使わなくていいからな。俺、この家族けっこう気に入ってるんだから」
そう言って俺は精一杯の笑顔を向けながら可奈子の頭を撫でた。
「お兄ちゃん……」
そう言って可奈子は泣き笑いの表情で俺を見返した。
「今日はもうお休み」
そう言って久留里さんがさっき俺にしたように可奈子の額に軽くキスをして俺は手を振って部屋を出た。
扉を閉める瞬間まで可奈子は手を振っていた。
俺は軽快に階段を下りると、ダイニングに入り、机の上の弁当箱の一つを持って本日最後にして最大の難題に向けて動き出した。
そのまま家を出て、隣の家の前に立ち、携帯の短縮を押す。
「なあに?総悟。こんな時間に」
数回のコール音の後、毎日聞き慣れた声が電話に出た。
「いま、ちょっといいか?もう家の前に来てるんだ」
小さく息を付く音が聞こえ
「すぐに出るわ」
それだけを伝え電話が切れた。
五分もしないうちに美幸は玄関から出てきた。
パジャマにカーディガンを羽織り、コンタクトを外して眼鏡を掛けているという格好である。
「どうしたの?総悟、こんな時間に」
格好からするともう寝ようとしていたのかも知れない。
でもこの時間に電話だから、俺が病んでいたときのことを思いだし、着の身着のまま出てきてくれたのだろう。
「これを渡すの忘れてたから。明日もよろしくな」
俺は持ってきた弁当箱を差しだした。
美幸はそれを門扉越しに受け取ったが、
「可奈子ちゃんはどうするの?」
当然その微妙に棘を含んだ問いが帰ってくるが
「断ったよ。それを見せて俺と美幸は付き合ってるからって言って」
えっ、と言う顔をしたあと美幸は
「へぇ〜、あたし達って付き合ってたんだ」
美幸は苦笑しながら、門扉を開けて出てきた。
「嫌か?」
美幸はちょっと戸惑ったが
「嬉しいけど、可奈子ちゃんはなんて?」
俺は少しおどけた声で
「泣かせちゃいました」
美幸は溜息をついた。
「罪な男ねえ」
目を細めてただ、そう言った。
「俺の一番は美幸だからな」
美幸は俺の顔をじっと見て
「ハイハイ、あたしもよ」
例の笑顔で言った。
「なあ、保健室での続き、してもいいか?」
美幸は少し上目遣いで俺を見たあと、
「うん……いいよ」
そっと目を閉じて顔をこちらに向けた。
時間にして五秒弱の触れるだけのキス。
顔を放すと美幸は何だか不服そうな顔をしていた
「終わり?」
美幸が俺の首に両手を巻き付けた。
「私が前のキスからどれだけ待ったと思ってるのよ?」
?!
「え?今のが初めてじゃ……」
今度は美幸が強引に俺に口づけた。
「あんたが餓死しそうになってたときに、あたしがどうやってアンタに食事させたと思ってんの?」
ようやく口を放してそれだけ言うと
「それって咀嚼プレ……ん〜〜〜」
俺にはろくな呼吸も、喋る暇も与えず彼女は再び俺の唇に吸い付いた。
その晩はそのあと延々数十分も美幸からのディープな口づけを受け続け、俺は何度か呼吸困難で川の向こうにお花畑を見ることになる。
美幸を待たせた俺も悪いと言えば悪いが、美幸がガマンした年数分は十分キスされたと思う。
美幸と別れた後、自分で部屋に戻ったが、目がちかちかしてて、足取りもおぼつかなかった。
これだけ汚せば満足でしょう。
てゆーか美幸さん、キスは当分勘弁して下さい。
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